製造業のIT遅れ、原因は?推進ポイントも紹介
「製造業のIT化は遅れている」
そんなイメージがありますが、令和の現代、本当にそうなのでしょうか?
本記事では経済産業省が発表した情報をもとに、製造業の現状とIT化を進めるポイントを解説します。
コンテンツ
製造業のIT化は遅れてる?
製造業の現状を、経済産業省の「2024年版ものづくり白書」から見ていきましょう。
8割以上の企業がデジタル技術を活用している
ものづくり白書によると、8割以上の企業が「ものづくりの工程・活動においてデジタル技術を活用している」と回答しています。
これだけ見るとIT化が進んでいるように思えますが、その詳細を見ると課題が浮き彫りになります。
多くの企業はデジタル技術の活用に課題あり
ものづくり白書では、デジタル技術の活用状況を以下のように分けています。
(A)基本的な活用のみの企業(5つ以下のデジタル技術を活用):86%
(B)活用が進んでいる企業(6つ以上のデジタル技術を活用):13.4%
※無回答企業を含むため、合計は100%にならない。
デジタル技術を6つ以上活用している企業は、全体の13.4%にすぎません。
この少数派企業は、以下のデジタル技術を組み合わせ、業務効率化や事業変革に取り組んでいます。
・CAD/CAM(設計・製造支援システム)
・IoT(モノのインターネット)
・RPA(業務自動化)
・AI(人工知能)など多岐にわたる技術を組み合わせ、
一方で86%の企業は、CAD/CAMや生産管理システムといった基本的な技術に限定されていました。
この結果からも、IT化を強く推進できている企業はごく一部と言えます。
参照元:2024年版ものづくり白書(PDF 70~72ページ)
製造業のIT化が遅れている原因
製造業では、大多数の企業でIT化が進んでいないことが経済産業省の調査で明らかになりました。
では、その原因はどこにあるのか。
新しい技術を導入するためのリソースが不足している
IT技術の導入や一新には、多額の初期投資が必要です。
しかし、大多数の企業にとって、そのための資金的な余裕が充分にはありません。
そんな状況では、最新のIT技術を取り入れる優先順位は下がってしまうのはごく自然なことと言えます。
新システムへの移行が難しい
製造業の多くは生産管理や在庫管理といった「基幹システム」を用いています。
これらは自社用にカスタマイズされていることが多いため、老朽化しても新しいシステムへの移行はシンプルではありません。
移行には時間やコストがかかるだけでなく、業務の停止リスクも伴います。
記憶に新しいものだと、2024年4月に起きた「江崎グリコ」での基幹システム移行トラブルがその代表例です。
商品の出荷停止状態が続き、江崎グリコの営業利益・売上高は莫大な損害を被りました。
もし同じようなトラブルが自社で起きたら、スケールは違えど企業存続の危機にもなりかねません。
「現行システムを維持したほうが安心」と考え、IT化の一歩を踏み出せない企業も少なくないでしょう。
参照元:当社基幹システム障害に伴う チルド商品(冷蔵品)の全品出荷再開に関するご報告 | 【公式】江崎グリコ(Glico)
IT化に対応できる人材がいない
IT化を進めるには、技術的な知識を持った人材の確保が不可欠です。
しかし製造業ではデジタル技術に精通した人材が不足しており、これが大きな課題となっています。
特に中小企業では、人材確保が困難であるうえ、社内に既存の社員を再教育するためのリソースも乏しい状況です。
また、IT技術に対して馴染みがなく、抵抗感を抱く社員がいることもIT人材育成の課題の一つです。
製造業でIT化を推進するポイント
IT化を促進したいからといって、やみくもに進めてはいけません。
促進のポイントを順番に見ていきましょう。
1. 課題を見つける
当たり前と思うかもしれませんが、まずは現場の課題を把握しましょう。
上層部からの指摘だけで「どこが問題なのか」を考えると、現実と乖離した判断をしてしまう恐れがあります。
現場から「これが面倒」「この作業に時間がかかる」といった不満や本音を直接聞くことが大切です。
2. 目的と目標を設定する
課題が見つかったら、次に取り組むべきは「目的」と「目標」を明確にすること。
目的は、「IT化を進める理由」や「会社がどのような状態を目指しているのか」を指します。
一方で目標は、その目的を実現するために設定する具体的な数値や成果です。
例えば目的が「現場作業の効率化」であれば、目標として「作業時間を1日あたり2時間短縮する」「手作業によるエラーを50%削減する」といった数値を掲げます。
3. 必要なITツールやシステムを選ぶ
「どうすれば目的、目標を達成できるか?」という視点で、ITツールやシステムを使った方法を検討します。
「最新技術だから」「有名、大手だから」という理由で選ぶと、失敗することが多いです。
例えば、目的が簡単な在庫管理であれば、スプレッドシートや手軽なクラウドツールで十分な場合もあるでしょう。
一方で工場全体の資源を管理したいのであれば、ERPのような大掛かりなシステムが必要になることも。
コストやサポート体制、使いやすさといった点も大切ですが、導入の目的・目標を念頭に置いたうえで検討を進めましょう。
4. 小規模から試験導入する
大規模システムをいきなり全社的に導入すると、先述したグリコのように失敗したときのダメージも大きいもの。
まずは小さな部署やラインで試験導入することで、リスクを抑えつつ使用感を確かめましょう。
この段階で得た知見を基に、必要があればカスタマイズや改善を行い、本格導入に備えます。
5. フォローアップや改善を継続する
IT化は、導入すればそれで終わりというわけではありません。
使い始めてからこそが本番であり、システムを活用しながらフォローアップを続けることが重要です。
例えば、導入当初は慣れない操作に戸惑う従業員がいたり、想定していなかった課題が出てきたりするかもしれません。
こまめにフィードバックを収集し、システムや運用方法を調整していけば、「現場が本当に欲しかったシステム」へと近づきます。
地道なものですが、これを繰り返すことで継続的に成果を高めることができます。
製造業におけるIT化の成功事例
製造業におけるIT化は、少数派ながら進んでいる企業があるのも事実。
ここでその事例を紹介します。
株式会社土屋合成
土屋合成の課題は、主力製品であるボールペンフレームの生産性を上げることでした。
ボールペンフレームの単価自体が低く、海外企業との競争に勝つには大量に生産する必要があったのです。
この課題に対し、同社は生産設備から検査、梱包までを徹底的に自動化し、365日24時間稼働できる体制を整備。
また、2020年にはDX課を設立し、デジタル技術を活用した改善に取り組みました。
こうした取り組みが功を奏し、その結果、売上高は2006年と比較して4.2倍、付加価値額は2.3倍、従業員数は1.9倍へと大きく成長しました。
中村留精密工業株式会社
中村留精密工業は、複合加工機に特化したニッチトップ企業です。
生産性向上のため、受注から出荷までの期間を5ヶ月から1か月半へ短縮するという目標を掲げていました。
実現のためにITを軸にした価値を考え、2023年には新工場を稼働。
これまでの「都度すり合わせ生産」という製造スタイルから、全体を組み付けた後に調整を行う「ユニット生産」へと変更。
作り方そのものを抜本的に見直した結果、リードタイムを短縮しています。
株式会社デンソー
大手自動車部品メーカーであるデンソーは、「次世代の設備づくりへの変革」に取り組んでいます。
デンソーでは、設備調整作業が職人のスキルや経験に依存しており、効率的な作業が難しいという課題がありました。
これに対し、3Dデジタルツインソフトウェアを導入し、設計段階からデジタル空間で仮想運転を検証する仕組みを構築。
現実に近い環境を再現するシミュレーションやエミュレーションを活用して、設備調整をデジタル上で完了させる方法を取り入れました。
結果として、属人化していた設備調整の時間を最大50%削減することに成功。
また、シミュレーションデータを蓄積と生成AIによる分析、ノウハウの資産化も促進しています。
IT推進はあおい技研にご相談ください
あおい技研は、製造業に特化した業務改善コンサルティング会社です。
製鉄や組立て系産業、食品、医療機器、化学系素材など、携わってきた現場は80以上。
ものづくりの現場一つひとつに、違った課題、難しさがあります。
それなのに一律の方法だけを提案するのでは、本質的な問題解決にはなりません。
私たちは、「現場・現物・現実」を踏まえて、データ分析を基にした仮説、そこから施策を打ち出します。
【実績例】
・工場構内の物流改善
・各種工程の分析、作業改善のご提案
・労働生産性の向上
・熟練作業者のノウハウ可視化、システム要件への落し込み
・製造ライン増設や工場リプレースにかかるレイアウト検討、シミュレーション
あおい技研は、現場の「かかりつけ医」でありたいと考えています。
IT化の推進、業務改善やコスト削減など、ものづくり現場でのお悩みをぜひご相談ください。
まとめ
製造業におけるIT化は、活用レベルの差が顕著です。
IT化が進まない背景には、システム導入コストや人材不足、既存システムの老朽化など複数の要因が潜んでいます。
推進にあたっては、課題の洗い出し、目的と目標の設定、小規模導入、そして改善。この流れを押さえておきましょう。
現場のお悩みに沿った業務改善コンサルティングなら、製造業のかかりつけ医「あおい技研」にご相談ください。
製造業のDXはあおい技研
株式会社あおい技研は、製造業に特化した業務改善コンサルティングを提供し、製造現場のDX推進をサポートします。80以上の製造現場での診断や改善の経験を活かし、お客様に合ったDX戦略を提案します。
データ分析、業務効率化システムの開発、現場のデジタル化などを通じて、お客様の業務改善と生産性向上を支援します。
製造業のDXについては、あおい技研にご相談ください。
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