勘と経験に頼らないモノづくりとは?製造業10社のデータ活用事例を紹介

データを活用したモノづくりは、今や大手企業だけの話ではなく、あらゆる製造現場で当たり前になりつつあります。
工場の稼働データや品質に関する情報、熟練者のノウハウなどを数字で捉えられるようになれば、予防保全や品質改善、さらには経営判断のスピードアップにもつながるからです。

本記事では、製造業におけるデータ活用の意義、そして実際にデータ活用を進めて成果を上げている10社の事例を紹介します。

製造業におけるデータ活用とは?

製造業におけるデータ活用とは、現場で発生するあらゆる情報を集めて、分析し、よりよいモノづくりや経営に活かすことを指します。
かつては「勘」や「経験」に頼っていた部分も、今はデータを根拠に判断できる時代になってきているのです。

どんなデータを使う?

製造業では、以下のような多様なデータが日々蓄積されています。
これらの情報をリアルタイムかつ自動で取得する仕組みが、近年ますます整ってきています。

■生産ラインの稼働状況(稼働時間/停止時間など)
■不良品の発生件数やその内容
■機械の温度・振動・圧力などのセンサーデータ
■作業者の動線や作業時間
■材料の在庫数や入出庫履歴
■製品納品後の使用状況(IoT経由)など

データをどう活用する?

■異常の早期発見(予知保全)
機械の異常兆候(温度上昇・振動増加など)を検知し、故障前にメンテナンスを実施。
突発的なライン停止を防ぎます。

■品質改善
「特定の条件下で不良が発生しやすい」といった傾向を分析し、原因を特定。
安定した品質づくりに貢献します。

■生産性向上
作業のムダや停滞ポイントをデータから可視化。
ボトルネックを見つけて改善アクションにつなげます。

■技術継承・教育支援
熟練者の動作や判断基準をデータ化して標準化することで、若手育成や属人化の解消が進みます。

■経営判断の高速化
「どこにどれだけのムダがあるか」「どの工程が効率的か」といった情報を数字で把握できるため、設備投資や生産計画の意思決定がスムーズになります。

製造業のデータ活用事例

中部経済産業局の「令和5年度データ活用事例集」から、製造業の事例を10社紹介します。

【久野金属工業株式会社】素材データの共有

■事業内容:自動車用及び産業用部品の設計・開発、金型製作、プレス加工ほか

自動車や産業用の金属プレス加工や組立を手がける同社。
シミュレーションに必要な素材データを、各企業が個別に管理していた非効率さが課題でした。
そこで大学や企業と協力し、金属プレス成形シミュレーション用の素材データをクラウドで共有する「IoTGO CAE」を開発。
研究機関などが保有する試験データを集約することで、素材データを取得する負担を軽減しました。
試験機を持たない中小企業へも月額1万円から利用できるように展開し、製造業界の生産性向上に貢献しています。

【DAISEN株式会社】暗黙知の共有

■事業内容:発泡プラスチック製品成形機製造・金型製造、発泡プラスチック製品製造

発泡プラスチック成形機を製造する同社では、ユーザー工場で機械異常が発生した際、ベテラン社員が電話対応でトラブルシューティングする状況が続くなど、メンテナンス効率に課題がありました。
そこで成形機の制御装置から稼働データを取得し、遠隔モニタリングが可能なサービスを開発。
クラウドを介して成形機の状態をリアルタイムで把握でき、迅速な原因究明や修理対応につながりました。
また、過去の修理履歴を電子カルテ化。
知見の共有と業務標準化を進めた結果、人材育成の負担も軽減しています。

【株式会社岐阜多田精機】社長のリーダーシップ

■事業内容:金型設計、製作および研究開発

プラスチックやダイカストの金型を製造し、品質向上と効率化を目指して「スマート金型」を開発。
金型内部にセンサーを設置し、圧力や温度データを可視化することで、射出成形時の条件設定を定量的に行えるようにしています。
従来は熟練者の勘に頼っていた部分を数値データで管理できるようになったため、不良品の削減や予防保全にも効果を発揮。
海外工場での成形条件の再現や納品工程の効率化にも役立ち、社長自身が先頭に立って取り組んだリーダーシップが、技術革新の大きな推進力となっています。

【株式会社キラ・コーポレーション】アフターサービスの強化

■事業内容:切削加工自動化ライン、切削加工機、難削材加工機の製造・販売

マシニングセンターの製造・販売を行う同社では、異常発生時の顧客対応に時間やコストがかかることが課題でした。
そこで独自のIoTユニット「KONEKT」を標準搭載し、機械の稼働状況データをクラウドに蓄積。
メーカー側もユーザー側も同じ画面を共有し、回転数や各軸の座標などを確認しながら遠隔操作や診断が可能になりました。
トラブル時に修理部品の取り違えや訪問の手間を減らし、機械の停止時間を最小化
プログラミングの人材育成から始め、現在はスピーディーな開発をモットーにサービス向上を図っています。

【株式会社ナガセインテグレックス】暗黙知の可視化

■事業内容:超精密研削盤、微細加工機、超精密測定システムなどの開発・製造

超精密研削盤を製造する同社では、熟練者のノウハウを若手へ短期間で伝承する必要がありました。
そこで40年分の加工データと熟練技術者へのヒアリングを基に、研削加工支援アプリ「GRINDROID」を開発。
加工条件を入力すると最適な組み合わせをスコア付きで提示し、操作を変えると結果がどう変わるかが分かる仕組みです。
若手がアプリを活用しながら熟練者と対話することで、無意識だった技術を客観的に学習でき、全社的に技術力が底上げされました。
社内外の人材を巻き込み、スピーディーに開発を進めた点も特徴です。

【株式会社コスモ計器】異なるデータソースからのデータ同期

■事業内容:工業用計測機器製造販売、工業用プラスチック製品製造販売ほか

工業用計測機器で世界的シェアを持つ同社は、気密性検査時の温度変化による誤差と、現場で異常が起きた際の原因究明に時間を要していました。
そこで東京都立産業技術研究センターとの共同研究により、温度計測点を最大13ヶ所まで拡張し、圧力と合わせて遠隔モニタリングできるシステムを開発。
異常検知や温度補正が精緻になり、ユーザーへの修理対応も従来より大幅に迅速化しました。
USBメモリによる蓄積から遠隔監視へと発展させたことで、アフターサービスの価値向上と省力化を同時に実現しています。

【株式会社ユーハイム】職人技術のデータ化

■事業内容:洋菓子・食料品の製造・販売、レストラン・カフェの経営等

老舗洋菓子メーカーの同社は、熟練職人が焼き上げるバウムクーヘンの技術をAIで再現するオーブン「THEO」を開発。
生地セット後、表面温度や焼き色、回転速度などのデータをAIが制御し、自動で均一な焼き上がりを実現します。
このオーブンを開発したことで、世界中どこでも職人級のバウムクーヘンを提供可能になりました。
遠隔操作の遅延などの課題を経てAIに切り替えたことや、伝統のレシピを公開して菓子店やカフェ、ホテルといったBtoB事業に展開した点が特徴です。

【株式会社ユームズ・フロンティア】分析用データの絞り込み

■事業内容:マイクロ水力発電装置の開発、販売・中古機械の販売・レンタル

中古機械の販売・レンタルを手がける同社は、水道管や工場配管などの水圧差を利用して最大3.5kWを発電できるマイクロ水力発電機「Crutto」を開発。
無人の場所で稼働するため、遠隔監視による異常検知が不可欠でした。
そこで2023年にセンサーとIoTシステムを整備し、電流値の変動などを遠隔で把握。異常発生を早期に発見して発電ロスを抑え、適切な運用提案も行っています。
コストと精度を考慮して必要データを絞りながら開発を続け、将来的にはAIを用いた予測モデルの実装を目指しています。

【株式会社名張ホールディングス】データ取得の工夫

■事業内容:IoT製品・生産支援システムの開発・販売、機械装置受託開発・販売

同社グループの名張製作所が自動車用コンプレッサーの製造を行う中、新規事業として工場のDXを支援する「ParaRecolectar®」を開発。
古い設備やセンサー未搭載の装置にも後付けで振動・温度などを取得可能にし、低コストで導入しやすいのが特徴です。
社内で試験運用を繰り返し、不具合の予兆を発見して修理工数を減らす成果を得ました。
基板設計やアプリ開発は外部企業やパートナーの知見も活用し、人材のスキルアップに寄与。
DXの「DIY化」を掲げ、ユーザー企業とのオープンな情報交換を進めています。

【四日市電機株式会社】意志のあるパートナー

■事業内容:電気設備の設計・施工管理業

社会インフラの電気設備設計・施工を行う同社。
取引先からの要望をきっかけに、海外企業の技術をライセンス契約し、電力ケーブルなどの絶縁劣化を診断する部分放電のデータ解析サービスを開始しました。
少人数から始まったプロジェクトですが、電気設備保守の経験者を採用し、ノウハウを蓄積。
取引先や専門家と協力しながらデータ活用を深め、電気設備の安定稼働に貢献しています。

※事例参照元:経済産業省 中部経済産業局┃令和5年度データ活用事例集

まとめ

製造業でのデータ活用は、「熟練者の暗黙知を数値化する」「設備の状態を見える化する」といったところからスタートしやすい一方、発展として「複数の企業や研究機関でデータを連携しあう」事例も増えています。
今回紹介した10例は、いずれも大規模な投資頼りというわけでなく、社内外の人材や技術をうまく組み合わせて進めている点が大きな特徴でした。
重要なのは、自社に合った最適な規模や方法を見極め、段階的に進めていくこと。
まずは、どんなデータを取り、どのように分析したいのかを明確にすることが大切です。
とはいえ、自社だけで始めるのはなかなか難しいもの。
現場改善のお悩みは、ぜひ製造業専門のコンサルタント「あおい技研」へご相談ください。

 

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株式会社あおい技研は、製造業に特化した業務改善コンサルティングを提供し、製造現場のDX推進をサポートします。80以上の製造現場での診断や改善の経験を活かし、お客様に合ったDX戦略を提案します。

データ分析、業務効率化システムの開発、現場のデジタル化などを通じて、お客様の業務改善と生産性向上を支援します。

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