失敗から始まる製造業DX事例┃中小・大企業の悩み別に紹介

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルそのものを変革する取り組みです。単なるシステム導入や業務のデジタル化とは異なり、「働き方や事業の構造を根本から変えること」がDXの本質です。

本記事では、現場主導で変革を起こした中小企業から、経済産業省の「DX銘柄」に掲載された大企業まで、製造業のDX事例を現場の悩みに分けて紹介します。

製造業におけるDXとは

製造業においては、工場の生産ラインや設備にIoTセンサーを取り付けてデータを収集・分析したり、AIを活用して品質検査や需要予測を自動化したりする取り組みがDXの代表例として挙げられます。

また、製品を「売って終わり」から「稼働データをもとにサービスを提供し続ける」モデルへと転換する動きも、製造業DXの重要な方向性のひとつです。

製造業でDXが注目される背景には、人手不足・熟練技術者の高齢化・グローバル競争の激化といった業界共通の課題があります。これらの課題をデジタル技術で解決し、生産性向上やコスト削減、新たな収益源の創出につなげることが、製造業DXの大きな目的です。

中小企業の製造業DX事例┃現場の「3つの悩み」別

【悩み1】システムを入れたけど現場が使ってくれない・反発される

樋口製作所(金属プレス加工)

初めは現場の設備データを可視化する仕組みを作りましたが、「使えない」と不満が続出しました。

そこで、現場の作業を熟知した社員にITを学ばせ、「ブリッジエンジニア」として育成。現場とITを繋ぐことで使いやすいシステムが生み出され、年間8,100時間の労働時間削減を達成しています。

西機電装(制御盤製造)

過去にパッケージの生産管理システム導入で大失敗し、現場の反発を招きました。
そこで、サイボウズ社の「kintone」を使い、「弁当発注」などの身近なアプリから小さく導入

さらにICカードやQRコードで簡単にアクセスできるIoTデバイスを自作したことで現場の抵抗感が消え、今ではリアルタイムでの損益管理まで実現しています。

【悩み2】ベテラン職人の勘に頼っていて、技術伝承が進まない

ヒバラコーポレーション(工業塗装)

品質標準化と廃棄塗料削減のため、最適な塗料の配合条件を指示する「配合条件アドバイザー」システムを自社で構築・運営。属人的な作業から脱却し、品質の安定化と無駄の削減に成功しました。

樋口製作所(金属プレス加工)

過去のデータからAIが先輩や上司に代わって作業指示を生成する「Lai-ser」や、3D図面から製造の実現性を判別する「Hawk AI」を開発。若手でもベテラン並みの判断ができる環境を整えました。

【悩み3】DXへの投資を「自社のコスト」だけで終わらせたくない

「そのDX投資、本当に回収できるのか?」という悩みに直面する企業も多いですが、今回ピックアップした3社には自社で成功したDXを他社へ外販し、新たな事業の柱にしているという共通点があります。

  • 西機電装
    自社の業務改善ノウハウを活かし、他社向けにシステム導入のコンサルティングを展開
  • ヒバラコーポレーション
    自社工場で実証した生産管理システム等をサービスとして販売する「DX事業」を立ち上げ
  • 樋口製作所
    DX推進ノウハウを地域企業に提供するサービスや、社員教育用コンテンツの提供を展開

「自社の課題解決」から「他社への価値提供」へと繋げることで、DX投資の強力な回収モデルを作っている点が特徴です。

※事例出典元1(樋口製作所・ヒバラコーポレーション)
 経済産業省┃中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025(DXセレクション2025選定企業レポート)

※事例出典元2(西機電装)
 経済産業省┃中堅・中小企業等における DX取組事例集

中小企業のDX事例から見る成功ポイント

1. 最初から大成功しているわけではなく「失敗」から始まっている

「ITツールを入れたら現場から反発されるのでは」と恐れる経営者は多いですが、実は成功企業も最初は痛い失敗を経験しています。

例えば西機電装は、最初にパッケージの生産管理システム導入に失敗し、現場で全く使われなくなってしまったという経験をしています。また、樋口製作所も初期に開発したデータ取得の仕組みに対して、現場から「使えない」と不満の声が上がりました。

最初から完璧なシステムを目指すのではなく、「失敗しても、そこからいかに現場の意見を聞いて改善していくか」という泥臭いリカバリーこそがDXの成功に必要なのです。

2. IT人材だけでなく、今いる社員を活かしている

「DXには高度なデータサイエンティストが必要」というイメージは、中小企業にとって大きなハードルになります。

樋口製作所では、外部から高給でエンジニアを呼ぶのではなく、製造現場を熟知した社内の人材にIT知識を習得させた「ブリッジエンジニア」を育成。
西機電装でも、「高度なデジタル人材は必要ではなく、『自分のわかる範囲内で新たなアイデアを出せること』こそが求められるスキル」と定義しています。

自社の業務を一番よく知っている「今いる社員」を教育することが、コストパフォーマンスの高いアプローチになった事例です。

3. コア業務ではなく「身近な面倒事」の改善から始めている

いきなり工場の生産管理などコアシステムを入れ替えようとすると、リスクも予算も大きすぎます。

西機電装では、システムに対する現場の心理的抵抗をなくすため、「弁当発注」や「体温記録」といった身近なアプリから導入をスタート。
さらに、現場でキーボード操作をするのが面倒だという物理的抵抗に対し、ICカードやQRコードを読み取るだけでアクセスできるIoTデバイスを自作する工夫も行っています。

まずは身近な「めんどくさいこと」をデジタル化し、現場に「ITって便利だな」という小さな成功体験を積ませることが、DXの第一歩となるのです。

大企業の製造業DX事例┃現場の「3つの悩み」別

【悩み1】デジタル人材が足りない・育てられない

ダイキン工業(機械)

「優秀なデジタル人材の確保は難しい」という現実に対し、ダイキンは外部採用ではなく自前の大学を作るという大胆な手を打ちました。

2017年に設立した「ダイキン情報技術大学」では、入学した新入社員は2年間、通常業務をいっさい免除してAI・IoTを徹底学習。卒業後は現場でDX推進の中核として活躍しています。
管理職・一般社員向けのプログラムも別途設け、2026年3月期末までにデジタル人材2,000人の育成を目標に掲げています。

デンソー(輸送用機器)

「一部のIT部門だけがデジタルを理解している」では変革は起きない、という考えから、グループ全社員75,000名を対象にデジタルリテラシー教育を実施。AI活用を含む240種の講座を年間500回以上開講し、AI関連だけで15,000人が受講しています。
「一握りのエンジニアが引っ張るDX」ではなく、全員が当事者になる体制を整えています。

【悩み2】自社の製品・技術をどうデジタルビジネスに変えるか

ダイキン工業(機械)

空調メーカーとしての強みは膨大な機器の運転データを持っていること。これを活かし、クラウド型空調コントロールサービス「DK-CONNECT」を国内展開し、2023年からはグローバル展開もスタート。
空調機を「売って終わり」から「つながり続けるサービス」へと変革しています。

三菱重工業(機械)

ガスタービンや発電設備などの大型製品を手がける同社は、「ΣSynX(シグマシンクス)」というコンセプトを軸にDXを推進。

多様な機械製品・サービスをデジタルで「かしこく・つなぐ」ことで新たな価値を創出する戦略で、ガスタービンの実機データとシミュレーションを組み合わせたAI予測制御・最適制御も実現しています。

【悩み3】DXを「社内の改善」で終わらせず、社会や業界全体に広げる

デンソー(輸送用機器)

自社のセンシング技術を応用し、森林のデータ化と3Dモデル化を自治体と共同推進するプロジェクトを展開。カーボンクレジットの獲得につなげることで、自動車部品メーカーという枠を超えた社会課題の解決に踏み込みました。

また、車載ソフトウェアの仕様標準化を業界全体で進めることで、自動車産業全体の競争力向上にも貢献しています。

三菱重工業(機械)

事業部ごとにバラバラだったデータを基幹システム刷新とあわせて一元化し、製造現場と経営層がリアルタイムで同じデータを共有できる体制を構築中。

O&M(設備の運用・保守)領域でもデータ活用を進め、「作って納めたら終わり」から「稼働中もデジタルでつながり続ける」ビジネスモデルへの転換を目指しています。

※事例出典元3(ダイキン工業・デンソー・三菱重工業)
 経済産業省┃DX銘柄2025

大企業のDX事例から見る成功ポイント

「人」への投資をコストではなく経営戦略として位置づけている

3社とも、デジタル人材の育成を数年単位・数万人規模で取り組んでいます。ダイキンは2年間業務免除で育成、デンソーは75,000人全員を対象に教育。
「ITベンダーに任せれば済む」という発想ではなく、自社内にデジタルの筋肉をつけることを優先しています。

既存の「強み」にデジタルを掛け合わせている

外からデジタル技術を持ってくるだけでなく、自社がもともと持っている技術や製品・データを起点にしているのが共通点です。
ダイキンなら空調の運転データ、デンソーならセンシング技術、三菱重工なら大型機器のO&Mノウハウ。デジタルのための変革ではなく、自社の強みを活かすためのデジタル活用という順番です。

「自社のDX」を社会・業界全体に広げようとしている

中小企業のDXが「自社の課題解決→外販」という流れだったように、大企業も自社内にとどまらず、業界標準化・自治体連携・グローバル展開へと広げる視点を持っています。
スケールは違っても、「DXを事業の外側に波及させる」という発想は共通していることがわかります。

製造業DXの推進ポイント

1. 経営トップがビジョンを掲げ、引っ張る

DXは現場やIT担当者に任せるだけでは進みません。「なぜ変わる必要があるのか」「5年後にどんな会社にしたいのか」を経営トップが言語化し、強いリーダーシップで推進することが出発点。

ダイキン工業が「情報技術大学」を設立できたのも、デンソーが75,000人規模の教育を実現できたのも、経営レベルの意思決定があったからです。

2. 小さな成功体験を積み重ねる

いきなり基幹システムの刷新を狙うと、現場の反発や混乱を招き挫折の原因になりかねません。まずは身近で手をつけやすい業務から着手し、現場に便利さを実感してもらうことが変革への足がかりになります。

西機電装が「弁当発注」から始めたのが好例で、現場のデジタルへの抵抗感を小さな成功体験で少しずつ和らげました。

3. データを「見える化」で終わらせず、価値に変える

データが蓄積されてきたら、次はそれを活用して新しい価値を生み出す段階に進む必要があります。

ダイキンが空調の運転データをクラウドサービスに昇華させ、三菱重工がガスタービンのデータをAI予測制御に活かしているように、データを稼ぐ仕組みに変える視点がポイントです。

4. 外部を活用しながら、社内に知識を残す

外部に丸投げするのではなく、専門家の力を借りつつ、自社の社員をプロジェクトに参画させてノウハウを蓄積していくことが重要です。

DXに「ゴール」はなく、変化に対応し続けることが目的。「システムを入れて終わり」ではなく、継続的にアップデートし続ける企業体質を作ることが、長期的な競争力につながります。

まとめ

製造業のDXは、大企業だけの話ではありません。中小企業でも、失敗を繰り返しながら現場主導で変革を起こした事例が数多くあります。

規模は違っても、成功している企業に共通しているのは「課題ありきでデジタルを選んでいる」という点。ツールや技術を先に決めるのではなく、「自社のどこが問題か」を起点に動いているからこそ、投資が現場に根付いています。

DXに正解の型はなく、自社の課題・強み・リソースに合わせた進め方が求められます。「何から手をつければいいかわからない」という段階から、専門家とともに整理していくことが、遠回りのようで確実な一歩です。

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