製造業DXで成果が出ない5つの理由【中小企業の事例あり】

「製造業もDXを進めないといけない」

ここ数年、そんな話を何度も聞いてきた管理職の方は多いのではないでしょうか。
人手不足や技術継承など、DXが求められる背景は、現場にいれば身に染みているはずです。
しかし実際には、こうした声も少なくありません。

「DXに取り組んではいるが、成果につながっている実感がない」
「そもそも何をもって成功なのかが曖昧なまま進んでいる」

実際にIPAの調査によると、多くの製造業がDXに着手している一方で、成果を出せている企業は半数程度にとどまっています。つまり、DXは「やるかどうか」ではなく、「なぜ成果が出ないのか」を理解しない限り前に進まない段階に来ていると言えるでしょう。

本記事では、製造業DXの基本的な内容や背景を網羅的におさらいしながら、成果が出ない5つの理由を考察。DXで成果を出した中小企業の事例も取り上げています。
「DXの基本的なことは十分わかっている」という方は、以下の目次をクリックして知りたい内容から読み進めてください。

コンテンツ

製造業DXとは?

今一度、DXという言葉の意味と、よく混同される「IT化」や「デジタル化」との違いを整理していきましょう。

DXの意味

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、直訳すると「デジタルによる変容」です。経済産業省などの定義を製造業向けに噛み砕くと、「データとデジタル技術を使って、製品やサービス、ものづくりの工程、さらには企業文化そのものを変革し、競争で勝ち残る強い工場を作ること」を意味します。
つまり、DXのゴールは「ツールを入れること」ではありません。

  • 「ベテラン職人の勘」に頼っていた品質管理を、データ化して「誰でも安定して出せる」ようにする
  • 「トラブルが起きてから直す」体制から、センサーで予兆を検知して「止まらないライン」を作る
  • 「大量生産」しかできなかったラインを、顧客の細かい要望に即座に応えられる「多品種少量生産」対応に変える

このように、「現場の働き方や、工場の稼ぐ仕組みそのものが変わること」こそが、DXの本当の意味です。

DX・IT化・デジタル化との違い

DXを理解する上で壁になるのが、「IT化」や「デジタル化」との混同です。これらは「ステップ」だと考えると分かりやすいです。製造業の現場に当てはめると、以下の3つの段階に分かれます。

デジタル化(デジタイゼーション)=「情報のデータ化」

意味 アナログな物理データをデジタルデータに置き換えること
紙で書いていた日報や点検表をタブレット入力に変える
紙の図面をPDF化する
効果 保管場所が不要になり、探す手間が省ける

IT化(デジタライゼーション)=「業務プロセスの効率化」

意味 デジタル技術を使って業務プロセスを効率化すること
生産管理システム(ERP)を導入することで発注・在庫・生産ラインの状況がリアルタイムで連携される
効果 部門間の確認作業が減り、業務スピードと生産性が上がる

DX(デジタルトランスフォーメーション)=「ビジネス・組織の変革」

意味 デジタルとITを駆使して製品の価値・ビジネスモデル・企業風土を変革すること
自社製品にIoTセンサーを組み込み、「モノを売って終わり」ではなく「稼働状況を監視し、故障前にメンテナンスを行うサービス」という新しいビジネスを始める
効果 新たな利益の創出、競争力の獲得

 

多くの企業がステップ1(デジタル化)やステップ2(IT化)で止まっているのに、「うちもDX化できた」と勘違いしてしまっています。

タブレットを導入して日報を電子化しただけでは、業務は少し楽になりますが、工場の本質的な強さは変わりません。IT化はあくまで「手段」であり、その先にある「儲かる工場・変化に強い組織への変革(DX)」を目指すことが重要なのです。

なぜ製造業にDXが必要なのか?

製造業の現場では、「今まで通りのやり方」では乗り越えられない問題が同時多発的に起きています。DXが必要とされる背景を説明します。

人手不足・技術者の高齢化

製造業の現場は慢性的な人手不足です。若年層の製造業離れが進む一方で、現場を支えてきたベテラン社員の高齢化は進んでいます。中小企業においては「求人を出しても応募が来ない」というケースもあるでしょう。

限られた人員でこれまでと同等、あるいはそれ以上の生産性を維持するためには、人がやらなくてもいい作業をデジタル技術やロボットに代替させる(自動化・省力化する)ことが急務。「少ない人数でも回る仕組み」を作るためにDXが必要なのです。

技術継承ができていない

高齢化とセットで現場を悩ませているのが「技術継承」の壁です。
「この機械の温度調整は〇〇さんにしかできない」「図面に記載されていないノウハウがベテランの頭の中にしかない」といった業務の属人化(暗黙知)は、多くの現場で見られます。もしそのベテラン社員が退職してしまったら、ライン全体へ影響を及ぼします。

DXは、こうした「職人の勘や経験」をIoTセンサーやカメラを使ってデータ化し、若手や新人でも再現できる「形式知」へと変換するための強力な武器になります。

多品種少量生産への対応を求められている

顧客のニーズが多様化する現代においては、細かな要望に合わせた「多品種少量生産」や、圧倒的な「短納期」への柔軟な対応が求められています。しかし、紙の指示書やホワイトボードでのアナログな管理、人の手による段取り替え(機械の切り替え作業)では、どうしても時間とコストのロスが発生してしまいます。

DXによって受注データから生産ラインまでを一気通貫で連携させることで、小ロットでもしっかりと利益を出せる、無駄のない柔軟な生産体制の構築につながります。

製造業DXのメリットとは?現場はどう変わる?

DXのメリットは現場レベルで表れます。代表的な6つの領域で、何がどう変わるのかを見ていきましょう。

【生産管理】生産状況をリアルタイムで把握できるようになる

「今、どのラインがどこまで進んでいるか」を確認するために、現場に足を運んだり、担当者に電話で問い合わせたりしていないでしょうか。

DXを進めてIoTセンサーや生産管理システムを導入すると、各工程の進捗・稼働率・生産数をリアルタイムで一元把握できるようになります。ラインの遅れを即座に検知、他のラインに振り替えるといった柔軟な対応も可能になるため、納期遅延のリスクを減らせます。

【設備保全】設備トラブルを事前に予測できるようになる

設備にセンサーを取り付けて振動・温度・電流値を常時収集することで、「いつもと違う兆候」を早めにキャッチし、トラブルが起きる前に手を打てるようになります。

「壊れてから直す(事後保全)」から「壊れる前に対処する(予知保全)」に切り替えることで、突然の設備停止で生産計画が崩れることを防ぎます。

【品質管理】品質のばらつきをデータで管理できるようになる

画像検査システムや測定データの自動記録を使えば、品質の判断基準をデータで統一できます。
熟練工の目視や感覚に頼らないため、人によるばらつきのリスクを低減。不良が発生した際も「どの工程で・どの条件のときに起きたか」をデータから追跡できるため、原因究明と再発防止までのスピードが速くなります。

【在庫管理】在庫状況をリアルタイムで把握できるようになる

「発注したら倉庫の奥に在庫があった」「欠品で生産が止まった」、こうしたトラブルはアナログ管理の現場でよく見られる問題です。

バーコードやRFIDを使った在庫管理システムを導入すると、どこに何がいくつあるかをリアルタイムで把握できます。過剰在庫と欠品の両方を防ぐことで、資金繰りの改善にもつながります。

【技術継承】熟練技術をデータとして共有できるようになる

熟練工の作業手順・加工条件・判断基準を、データや動画マニュアルとして記録・蓄積できます。これまで暗黙知だったノウハウが、会社全体の資産へと変化。ベテランが退職しても現場が止まらない体制が作れ、若手の育成コスト削減にもつながるでしょう。

【経営判断】現場データをもとに迅速な意思決定ができるようになる

生産・品質・在庫・コストのデータをダッシュボードで一元管理することで、現場の状況をリアルタイムで把握できます。

月次集計を待たずに動けるため、問題が起きてから気づくまでのタイムラグを抑えることが可能。「なんとなく気になる」ではなく、データを根拠に判断でき、意思決定のスピードと精度を同時に引き上げます。

製造業DXの現状は?

製造業におけるDXの状況を、IPAの調査(DX動向2025)から見てみましょう。

約8割の企業が何らかの形でDXに着手している

日本の製造業におけるDXの取り組み状況です。

  • 全社的にDXに取り組んでいる:36.9%
  • 一部の部門において取り組んでいる:21.9%
  • 部署ごとに個別で取り組んでいる:21.8%
  • 取り組んでいない:18.1%
  • わからない:1.2%

数値から、約8割の企業が何らかの形でDXに着手していることがわかります。取り組み自体は着実に広がっている一方で、課題も見えてきています。

DXの成果が出ている企業は6割弱にとどまる

続いて、日本の製造業におけるDXの成果です。

  • 成果が出ている:56.7%
  • 成果が出ていない:18.6%
  • わからない:24.8%

DXの成果が出ていると回答した企業は6割弱にとどまり、4割以上が成果を出せていない、あるいは把握できていない状況です。DXに取り組んでいるのは8割を超えているにもかかわらず、なぜこのような結果になるのでしょうか。
次のセクションで考察します。

※データ出典元:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)┃DX動向2025(データ集)【PDF】

製造業DXはなぜ成果が出ないのか?データから浮かぶ5つの課題

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX動向2025」のデータから、日本の企業が抱える5つの課題について考えます。

1. 成果のための指標設計が弱い

【DXの成果が分からない理由】

  • 成果の評価はこれから進める予定:33.4%
  • DXの成果目標を定めていない:21.9%
  • 部署単位で進めているので把握できていない:12.9%
  • 成果を得るためのデータや情報が得られない:12.2%
  • 成果の評価の方法がわからない:9.3%
  • DXの進捗状況がわからない:4.2%
  • その他:3.2%
  • 成果の評価の予定はない:2.9%

※対象:日本、DXの成果の内容に関する設問で「わからない」と回答した企業(業種問わず)

DXの成果が「わからない」と回答した理由を見ると、半数近くの企業において成果の評価をまだ行っていないか、そもそも成果目標を定めていないという結果になりました。

さらに、成果目標がないことに関連する回答としては「部署単位で進めているので把握できていない」「成果を得るためのデータや情報が得られない」「成果の評価の方法がわからない」などが挙げられています。

このことから、何をもって成果とするかの指標を設定できていない企業が多いという実態が浮かび上がります。

2. DX人材が不足

【DXを推進する人材の「量の確保」】

  • やや過剰である:0%
  • 過不足はない:2.9%
  • やや不足している:28.3%
  • 大幅に不足している:61.2%
  • わからない:7.6%

DX推進人材の量の確保については、「大幅に不足している」が61.2%、「やや不足している」が28.3%という結果でした。「過不足はない」と回答した企業はわずか2.9%しかなく、日本の製造業の約9割が人材不足を感じています。

3. DX文化(組織文化)が弱い

日本は「企業の行動指針となる企業倫理が周知されている」を除いて、以下11項目が3か国中(米国・ドイツ・日本)最も低い結果になりました。

【DXを推進するための企業文化・風土の状況(※項目)】

  • 職位間や部門間含め社内の風通しがよく、情報共有がうまくいっている
  • 多様な価値観を受容する
  • リスクを取り、チャレンジすることが尊重される
  • 企業の目指すことのビジョンや方向性が明確で社員に周知されている
  • 意思決定のスピードが速い
  • 個人の事情に合わせた柔軟な働き方ができる
  • 個人の業績や貢献が適正に評価される
  • 高いスキルを持っていることが報酬に反映される
  • 様々な挑戦の機会があり、中長期的な自己の成長が期待できる
  • 新しいスキル等を習得することが奨励される
  • 学習を支援する制度やプログラムが充実している

この結果からは、日本の製造業ではDXを支える組織文化そのものが弱く、単発のデジタル施策が成果につながりにくいことが読みとれます。

DXは新しいシステムを入れるだけでは進まず、部門をまたいだ情報共有、挑戦を認める風土、素早い意思決定、学び直しを後押しする仕組みがそろってはじめて前に進みます。

実際、日本はこうした項目の多くで米国・ドイツを下回り、さらに成果が出ている企業ほど企業文化・風土の各項目で「できている」と答える割合が高いとしています。つまり、DX文化の弱さは文化(雰囲気)の問題ではなく、成果を阻む構造的な課題と考えられます。

4. レガシーシステムが多く残存している

【レガシーシステムの状況】

  • レガシーシステムはない:17.9%
  • 一部領域にレガシーシステムが残っている:35.2%
  • 半分程度がレガシーシステムである:16.5%
  • ほとんどがレガシーシステムである:16.3%
  • その他:0.3%
  • わからない:13.8%

社内システムの状況を見ると、「レガシーシステムはない」と回答した製造業は17.9%にとどまります。残りの多くの企業で一部領域やほとんどの領域にレガシーシステムが残っている結果となりました。古い既存システムからの脱却が依然として大きな課題となっていることが伺えます。

5. 経営層にデジタル分野の見識がない

【経営者のデジタル分野についての見識の有無】

《日本》

  • 十分に持っている:12.3%
  • まあまあ持っている:27.9%
  • どちらとも言えない:23.6%
  • あまり持っていない:23.6%
  • 持っていない:12.5%

《米国》

  • 十分に持っている:41.5%
  • まあまあ持っている:36.0%
  • どちらとも言えない:15.7%
  • あまり持っていない:3.3%
  • 持っていない:3.5%

《ドイツ》

  • 十分に持っている:29.2%
  • まあまあ持っている:44.7%
  • どちらとも言えない:18.4%
  • あまり持っていない:4.8%
  • 持っていない:2.8%

日本において、デジタル分野についての見識を持っている経営層の割合は、半数以下の約40%(※)です。米国77.5%、ドイツ73.9%と比較すると非常に低い数値で、日本のDXにおけるリーダーシップの課題を示しています。

DXを成功させるには、現場の努力だけでなく、経営トップ自らがデジタル技術の可能性を正しく理解し、全社的なビジョンを掲げて投資決断を下すことが不可欠です。

しかし、経営トップやマネジメント層にデジタルへの知見が乏しいと、「なぜこのシステムにこれだけの予算が必要なのか」「どうビジネスを変革するのか」を判断できません。結果として、表面的なIT化(部分最適)で終わってしまう可能性があるのです。

※「十分に持っている」「まあまあ持っている」の合算

総じて、日本の製造業は「DXに取り組む」というスタートラインには立っているものの、明確な指標や目標がないまま見切り発車してしまっているという課題が見えてきます。

深刻な「DX人材の不足」や「レガシーシステムの残存」といった物理的・技術的な足かせに加え、「デジタルに明るくない経営層」と「変化や挑戦を拒む組織文化」という目に見えない壁が、成果の創出を阻んでいる状況と言えるでしょう。

【中小企業向け】製造業DX推進のポイント

ここまで、データから日本の製造業全体が抱えるDXの課題を見てきました。全体傾向として「人材不足」や「組織文化の壁」に苦戦しているのですから、リソースが限られる中小企業にとってはなおさらハードルが高く感じられるかもしれません。

実際、同調査では従業員規模が小さい企業ほど、DXに取り組むための知識やスキル、人材の不足を課題として挙げる割合が高いことも分かっています。

しかし、「大企業と同じやり方はできない」と悲観する必要はありません。中小企業には大企業にはない強力な武器があるからです。
それは、組織がコンパクトであるがゆえの「機動力」、変化への対応スピードです。

近年、先行きが不透明な時代を生き抜くためにダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)という概念が重要視されています。これは、環境の変化をすばやく察知し、社内のリソースを組み替えて、自らを柔軟に変革していく能力です。

経営トップの決断が現場の隅々まで浸透する中小企業は、このダイナミック・ケイパビリティを発揮しやすく、実はDXと相性が良い環境にあると捉えられるのです。
ここからは、中小企業が自社の機動力を活かし、DXを成功させるためのポイントを解説します。

1. 経営トップ自らがリーダーシップを発揮する

DXの本質は単なるITツールの導入ではなく、ビジネスと組織の変革です。そのため、現場任せやIT担当者任せにするのではなく、経営トップ自身が「自社をどう変えたいか」という明確なビジョンを掲げ、強力なリーダーシップを発揮することが不可欠です。

まずは経営者自身が「変わらなければならない」という気づきを得ることが最初の一歩となります。外部セミナーへ参加したり、他業界の経営者やコンサルタントと対話するのも良いでしょう。
経営層の熱意と決断が浸透しやすい中小企業こそ、このトップダウンの推進力が強い武器になります。

★POINT
「なぜ変わる必要があるのか」という目的を言語化し、現場の迷いを払拭する

2. 5年後・10年後を見据えた中長期的な視点を持つ

新しいシステムを入れたからといって、明日から劇的に業績が上がるわけではありません。DXは、泥臭い業務プロセスの洗い出しから始まり、現場の巻き込み、人材育成までを伴う長期スパンの取り組みです。

だからこそ、「5年後、10年後にどんな会社になっていたいか」という中長期的なビジョンを持つことが重要なのです。ゴールが明確になることで目の前のコストに一喜一憂せず、未来に向けた「投資」としてDXに取り組むことができるようになります。

★POINT
DXは企業価値を高めるための「未来への投資」

3. まずは身近な業務から始めて、「小さな成功体験」を重ねる

いきなり大規模なシステム刷新を狙うと、現場の反発や混乱を招き、挫折する原因になります。
手始めに、「手書きの作業日報をタブレット入力にする」「グループウェアで有給申請やスケジュール管理を行う」といった身近で手を付けやすい業務から着手してみましょう。

ただし、冒頭で述べたように、これだけではDX化とは言えません。
この段階では、「探す手間が省けた」「情報共有が楽になった」といった小さな成功体験を現場に実感してもらうことが目的です。デジタルへの抵抗感が薄れ、次の大きな変革へと進みやすくなります。

★POINT
現場の「今のやり方を変えたくない」という抵抗を払拭するため、小さな改善で効果を見せる

4. データを分析・活用し「新たな価値」を創出する

身近な業務のデジタル化によってデータが蓄積され始めたら、次はそのデータを活用して新しい価値を生み出しましょう。

たとえば、「過去の膨大な見積もりデータをAIに学習させ、自動見積もりサービスを開始する」「設備の稼働データを分析し、故障前にメンテナンスを行う新ビジネスを作る」といった取り組みです。

さらに、受注から生産までのデータを取引先(サプライチェーン)と連携できれば、自社だけでなく取引先にとってもWin-Winな関係が構築され、企業としての付加価値が大きく向上します。

★POINT
データを「見える化」して満足するのではなく、稼ぐ仕組み(ビジネスモデル)へと昇華させる

5. 全て自前でやらない。外部を活用しながら「DX人材」を育成する

DX推進において多くの企業が直面するのが「デジタル人材の不足」です。しかし、最初から完璧な専門人材を自前で採用しようとするのは、採用ハードルの高い中小企業にとって現実的ではありません。

まずはコンサルタントやベンダーなどの外部専門家を頼り、足りないスキルを補完しましょう。その際、外部に丸投げするのではなく、自社の若手社員(デジタルネイティブ世代)をプロジェクトに参画させることが重要です。

外部の力を借りながら実践を通じてノウハウを吸収させ、中長期的な視点で社内のDX人材を育成する「ハイブリッドな体制」を目指しましょう。

★POINT
外部に「丸投げ」するのではなく、社員を巻き込むことで社内に知見を蓄積

6. 一過性で終わらせず、継続的な変革で取り組みを拡大する

DXに「ここで終わり」というゴールはありません。本当の目的は、ツールを導入することではなく、顧客のニーズや社会の変化に合わせて「素早く変わり続けることができる強い組織」を作ることです。

一度システムを導入して満足するのではなく、得られたノウハウを活かして継続的にビジネスモデルや組織をアップデートし続ける必要があります。DXにかかる費用を単なる「コスト」ではなく「重要な投資」と位置づけ、変化を恐れない企業体質を作っていきましょう。

★POINT
「システムを導入して終わり」を脱却、変化への対応力(ダイナミック・ケイパビリティ)を手に入れる

7. 経営の孤独を解消する「伴走支援」を活用する

これまでの組織やビジネスのあり方を根本から変えるには、経営者自身の「自己変革力」も問われます。しかし、中小企業のトップは孤独になりがちで、自社だけで悩みを抱え込んでしまうケースも少なくありません。

そんな時に重要になるのが、外部からの客観的な視点を持った「伴走支援者」の存在です。利害関係のないフラットな立場の相手(支援機関や専門家)と壁打ち(対話)を重ねることで、自社の真の課題やパーパスが浮き彫りになります。

★POINT
客観的な意見から経営者の思い込みを取り払い、自社の進むべき道を整理する

中小企業における製造業DXの取り組み事例

中小企業がDXに取り組んだ事例と、その効果を紹介します。

ヒバラコーポレーション

工業塗装サービスを提供する、茨城県の企業です。溶剤塗装、粉体塗装、カチオン電着、FBC(流動浸漬)などの高品質な工業塗装サービスを提供するとともに、自社工場のDX化を展開しています。

  • 業種:工業塗装
  • 資本金:3000万円
  • 従業員数:51名

課題

  • 設備の状態をリアルタイムで把握できていない
  • 品質のばらつきやロスが発生している
  • 現場のノウハウが体系化されていない
  • 従来の製造ビジネスだけでは付加価値に限界がある

製造現場では、設備状況や品質に関する情報が十分に活用されておらず、生産性向上や品質安定化に課題がありました。また、自社の強みを活かした新たな収益モデルの構築も求められていました。

DXへの取り組みと成果

  • 設備監視システムを導入
    設備の稼働状況を可視化し、異常の早期検知によって安定稼働と稼働率向上を実現
  • 塗料の最適配合を支援するシステムを開発
    品質の標準化により、ばらつき抑制と廃棄塗料削減を実現
  • 塗装工程の自動化
    AIやロボットで属人作業を削減し、省人化と生産効率・品質の安定化を実現
  • DX事業を新機軸として展開
    自社ノウハウを外部提供し、複数企業導入による新たな収益源を確立

自社の製造現場において、設備監視システム、塗料の最適配合システム、AIやロボットを活用した自動化などを導入し、生産性向上や品質安定化を図っています。

特筆すべき点は、DXの取り組みによって得られたノウハウ・技術を社内に蓄積するだけでなく、それらをパッケージ化してDX事業へと展開している点。DXによって新しい価値を創出した事例です。

樋口製作所

岐阜県の金属プレスメーカーの事例です。深絞り技術をはじめとした高度な加工技術に加え、金型や設備の内製化によって、顧客ニーズに応じた柔軟なものづくりを強みとしています。

  • 業種:金属プレス専門メーカー
  • 資本金:2000万円
  • 従業員数:279名

課題

  • データが現場・設備ごとに分散しており、活用できていない
  • 熟練者に依存した属人化が進んでいる
  • 作業や設備判断が人頼みでミスが発生する
  • 品質トラブルや顧客対応に時間がかかる

現場にはデータが存在しているものの、部門ごとに分断されており意思決定に活かせていませんでした。また、加工判断やノウハウが個人に依存しており、生産性と品質の安定化に課題がありました。

DXへの取り組みと成果

「データの全社活用」と「現場の自律化」を軸にDXを推進しています。
まず、生産設備や現場アプリから取得したデータを一元化。各部署がリアルタイムで必要な情報を取得できる社内プラットフォームを構築することで、部門間の情報分断を解消しています。

さらに、生産条件・設備・人・保全情報など複数のデータを組み合わせて判断する仕組みを構築し、不適切な条件では設備が稼働しない「インターロックシステム」を自社開発。現場の判断をデータベース化し、ミスの防止と品質の安定化を実現しています。

最後に、熟練者のノウハウをAIとして再現する取り組みも進めています。3D図面から加工可否を判断するAIや、現場に対して注意点を提示する管理者AIなどを開発し、技術の属人化解消と若手育成を同時に進めています。

これらのDX施策によって、生産性・品質・業務効率の面で改善が見られました。具体的には、年間8,100時間の労働時間削減に加え、一日の生産性は一人当たり212万円から285万円へと向上。

品質面でも成果が出ており、クレーム対応時間は半日から数分へと短縮。不具合流出件数も減少しています。
さらに、データに基づく意思決定が可能になったことで、現場の対応スピードが向上。業務全体の効率化につながりました。

結果として、単なる業務効率化にとどまらず、「空いた時間を創造的な業務やスキル向上に充てられる組織」へと変化しています。

※事例参照元:経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課┃中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025(DXセレクション2025選定企業レポート)

 

まとめ

DXに取り組んでいる製造業は約8割ですが、成果が出ているのは6割弱です。
成果が出ない背景には、5つの課題があります。成果指標を定めていない、DX人材が大幅に不足している、組織文化がチャレンジを拒む、レガシーシステムが足かせになっている、経営層にデジタルの見識がない——これらが複合的に絡み合っているため、成果につながりにくい状態なのです。

ただ、裏を返せば「なぜうまくいかないか」が明確になっているということ。中小企業でも、現場起点でデータを活用し、段階を踏んで進めることで成果が出る事例もあります。大切なのは、経営トップがビジョンを掲げ、小さな成功体験を積み重ねながら、外部を活用しつつ社内に知見を蓄積していくことです。

DXに完成はありませんが、自社を更新し続けることで変化への対応力(ダイナミック・ケイパビリティ)を手に入れることができます。まずは自社の現場で一番困っていることを起点に、動き出してみましょう。

製造業のDXにまつわるよくある疑問

DXとIT化はどう違うのですか?

IT化は「手段」であり、DXはその先にある「目的」です。
IT化は、紙の帳票をデータ化したり、生産管理システムを導入したりして「業務の効率化」を図ることを指します。一方でDXは、単にツールを導入することではなく、データやデジタル技術を活用して「顧客視点で新たな価値を創出し、ビジネスモデルや企業文化そのものを変革すること」を意味します。

つまり、IT化という手段を土台として、会社そのものを強く生まれ変わらせるのがDXなのです。

DXとIoTは何が違うのでしょうか?

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)は、DXを実現するための「技術」の一つです。製造業におけるIoTとは、機械や設備にセンサーを取り付け、稼働状況や温度などのデータを収集・通信する仕組みを指します。

これに対してDXは、そのIoTで集めたデータを分析・活用して「不良品を減らす」「新たなメンテナンス事業を立ち上げる」といった、「新たな価値を創出する取り組み全体」のことです。

製造業におけるDXとインダストリー4.0の違いとは?

インダストリー4.0(第4次産業革命)は、ドイツ政府が提唱した「製造業のデジタル化によるスマート工場化」を目指す国家戦略のことです。

一方、DXは製造業に限らず、すべての産業や社会に当てはまる「デジタル技術でビジネスモデルや組織を根底から変革する」というより広い概念を意味します。

中小製造業の文脈では、「インダストリー4.0(スマート工場化)の実現は、自社のDX推進という大きな目標の中の一つの姿である」と捉えると分かりやすいでしょう。

DXの話でよく聞く「レガシー」とは何ですか?

レガシー(レガシーシステム)とは、導入から長期間が経過し、老朽化・複雑化・ブラックボックス化してしまった「古い既存システム」のことです。

DXを進めてデータを全社で活用しようとしても、このレガシーシステムが「新しいシステムと連携できない」「作った人が退職して中身が分からない」といった理由で、変革の大きな足かせになってしまうことが多々あります。レガシーシステムからの脱却が、多くの企業にとってDXの最初の壁となっています。

製造業のDXはあおい技研

株式会社あおい技研は、製造業に特化した業務改善コンサルティングを提供し、製造現場のDX推進をサポートします。80以上の製造現場での診断や改善の経験を活かし、お客様に合ったDX戦略を提案します。

データ分析、業務効率化システムの開発、現場のデジタル化などを通じて、お客様の業務改善と生産性向上を支援します。

製造業のDXについては、あおい技研にご相談ください。

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