多能工化とは?導入メリット4つと推進するうえで気をつけたいポイント

多能工化とは、一人の従業員が複数の作業や業務をできる状態にすることです。日本の製造業では従来、一人の従業員が特定の作業や業務だけを受け持つ、職人的な働き方が採用されてきました。専門技術性を高めていけるメリットはありますが、作業や業務が属人的になってしまうため、他の従業員では仕事を代替できない問題が発生してしまいます。

多能工化を推進することで、従来の属人的な問題を解消し生産性を高められると、近年では製造業で取り組まれています。今回は、多能工化についてと導入メリット4つを解説します。製造業の現場で多能工を進めるときに気をつけたいポイントも紹介するため、ご参考にしてみてください。

多能工化とは

多能工化は、「マルチタスク化」「マルチスキル化」とも言い換えできます。一人の従業員が複数の作業や業務をできるようにすることで、臨機応変な人員配置が可能となったり、業務の平準化が実現したりします。

多能工と単能工の違い

多能工と対をなすものが、単能工といいます。単能工とは、一人の従業員が特定の作業や業務だけを受け持つ、職人的な働き方です。日本の製造業では単能工を採用しているケースがほとんどであり、従業員個人の高いものづくり技術が従来、評価されてきました。しかし、少子高齢化で労働人口不足が深刻化している現代の日本において、単能工の働き方について見直す必要があります。

具体的には単能工の場合、従業員が休むとその人が担当していた作業や業務は、代わりにできる人が存在しないため、進まなくなってしまいます。突然の休職や退職が発生したときも、引き継げる人がおらず、納期遅れなどの問題が生じてしまうリスクもあります。

世界市場のニーズが著しく変化している現代において、リスクが高く生産性が不安定な単能工の働き方は、合理的だといえなくなってきているのです。単能工のメリットは、一つの作業や業務に集中できるため熟練度が高いことですが、代替が効かず人手不足をカバーできない脆さがあります。

多能工化が生まれた背景

多能工化が生まれた背景は、トヨタ自動車の生産システムにあります。

トヨタ自動車の製造現場も、最初は単能工を採用していました。しかし、元トヨタ自動車工業副社長の大野耐一氏は、前の勤務先であったトヨタ紡織の生産システムを思い出します。トヨタ紡織では、一人の従業員が複数の機械を操作し、生産を行っていました。トヨタ自動車の生産システムと比較した結果、トヨタ紡織のような多能工のメリットが大きいと考え、推進を始めたのです。

トヨタ自動車で多能工化を進めた結果、作業や業務が集中する工程に柔軟に人材配置ができるようになったり、業務負荷が平準化されたりと、生産性が大幅に向上しました。

多能工化のメリット4つ

多能工化を導入するメリットは、人員的なリスク回避だけではありません。製造業における最大の目標である、生産性向上に大きく貢献します。それでは多能工化の具体的なメリット4つを解説します。

業務が平準化される

多能工化が実現すると、業務が平準化され、柔軟に人員配置を変更できるようになります。突然の人員不足や設備トラブルの対応などにも、問題なく対応できることは大きなメリットです。お互いの業務が見える化し、カバーし合える利点もあります。

働き方改革を起こせる

多能工化が進むと、業務負荷の偏りも減少します。業務が集中する工程に人員投入できるようになるため、業務負荷の均等化を実現できます。特定の従業員だけ、残業や休日出勤が発生するような労働環境問題を解消でき、結果的に働き方改革を起こせることがメリットの一つです。働き方改革によって従業員の疲労負担を減らすことにより、生産性向上にもつながります。

リスクヘッジになる

多能工化を推進することで、単能工によるリスクを回避できることもメリットです。単能工によるリスクは主に以下の2点があります。

  • 1.従業員の突発的な休暇や離職に対応できず業務がストップする
  • 2.作業や業務の属人化が深刻になり業務のブラックボックス化も起きる

一つの作業や業務を複数の従業員が担当できるようになれば、欠員が出ても誰かが代わりに対応できるため、大きな問題は発生しません。休暇を取得する従業員の、心理的負担を減らせるメリットもあります。

また、作業や業務の属人化を解消できるため、業務のブラックボックス化も阻止できます。業務の引き継ぎや教育もスムーズになり、透明性の高い生産現場を構築できます。

組織力が向上する

多能工化が実現している現場では、従業員が全体の工程を把握できるようになります。他工程への理解が深まるため、チームワークが自然と生まれ、組織力が向上することもメリットです。従業員の円滑なコミュニーケーションや組織力向上は、生産性向上にも大きく関わります。

多能工化を推進するうえで気をつけたいポイント

多能工化は画期的な改革ですが、上手く推進していかないと、問題が発生してしまう可能性もあります。多能工化を実現するまでの期間は従業員に負担をかけてしまう取り組みでもあるため、慎重に導入していきましょう。多能工化を推進するうえで、気をつけたいポイントを解説します。

推進状況を可視化しながら進める

多能工化を進めるときは、推進状況を可視化することをおすすめします。進捗状況の可視化は、経営層と従業員の双方にとってメリットがあります。まず、経営層は進捗状況を可視化することで多能工化の計画を立てやすくなり、評価もしやすくなることがメリットです。作業や業務の問題点や課題など、ムダを新たに発見することもできます。

従業員は進捗状況の可視化によって、モチベーションを維持しやすくなります。
作業負荷の均等化によって、過酷な労働や残業が減少していく状況を実感できれば、多能工化に対して前向きな姿勢を持てるメリットもあります。

進捗状況の可視化は、ツールやシステムを使うとスムーズに実行できます。エクセルでガントチャートを作成したり、進捗状況の可視化に特化した生産管理システムを導入したりしてみてください。

教育コストがかかる

多能工は業務の標準化や負荷の均等化を実現できる素晴らしい取り組みですが、スキルの習得までには当然ですが時間がかかります。一人の従業員が複数の工程を担当できるようにするということは、それだけ覚えることも多くなるということです。多能工スキルを身につけるまでには、長い時間がかかることを念頭に入れておきましょう。

教育コストを削減するためには、一人一人の適性を把握してから多能工化するなどの工夫も大切です。教育に必要なマニュアルなどを準備することなども大事になってきます。また、育成期間は不慣れによって生じるミスや損失もあります。
長い目で見て恩恵を受けられるのが多能工化なため、達成までの期間は忍耐も必要です。

人事評価制度を見直す必要がある

単能工と多能工では、人事評価基準が違います。基準を見直し適切な評価をしないと、従業員のモチベーション低下につながり、離職の原因になってしまうこともあります。多能工化によって新たに生じている従業員の負担を考慮しながら、適切な人事評価を並行して実行していくことが重要です。

多能工化は製造業の現場に変革を起こす(まとめ)

多能工化は、製造業の属人的な問題を解消し、生産性を高められる取り組みです。一人の従業員が複数の作業や業務をできるようにすることで、臨機応変な人材配置が可能となったり、業務の平準化を実現できたりするメリットがあります。単能工の問題である人員不足による業務の停止や作業の属人化、業務のブラックボックス化を解消できる大きな利点もあります。

ただし、多能工化を推進するときは、従業員のモチベーション維持のためにも推進状況を可視化しながら進めることがとても重要です。教育コストがかかることも考慮しながら、人事評価制度の見直しも検討し、慎重に進めていくようにしましょう。

今日のポイント

  • 多能工化とは一人の従業員が複数の作業や業務をできる状態にすること
  • 多能工化のメリットは「業務が平準化される」「働き方改革を起こせる」「リスクヘッジになる」「組織力が向上する」こと
  • 多能工化を推進するうえで気をつけたいポイントは、推進状況を可視化しながら進めることと教育コストがかかること、人事評価制度を見直す必要があること
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